アンドロイド:ネットランナーの英語版のみのカードを紹介:第3回 - The Turning Wheel ~ 「ランします」「はい」「ランの終了踏みます」「はい」「あと3回これを繰り返しますがいいですか?」 ~
マルチアクセス、つまり中央サーバーのカードに複数枚アクセスできるようになる効果を持つカード。
現環境では《HQインターフェース/HQ Interface》と《R&D Interface》がその代表です。しかしこれらはコスト4という非人道的な数字を持つため、インストールしたターンにはまずもってランできません。そのため、直後のコーポのターン、インターフェースが機能するほうのサーバーにアイスを置かれるのがオチです。ランナーは自分から4クレジット失った自分の愚かさを呪いつつ敗北していくのです。
そうした苦い思い出から、《R&D Interface》が第二版に再録されずスタン落ちしたことを悲しむものは誰一人いませんでした。
《The Turning Wheel》
リソース:仮想
HQかR&Dへのランが終了するたび、そのランの間に計画書を盗んでいない場合、The Turning Wheelにパワーカウンターを1つ置く。
搭載されているパワーカウンター2つ:このランの残りの間、HQかR&Dのカードに追加で1枚アクセスする。
フィリップ・K・ディックの短編から名をとったこの《The Turning Wheel》は、「サーバーの名前+インターフェース」という投げやり極まる名前の過去のカードと違い、フィリップ・K・ディックの短編から名をとっているので、環境を定義しました。このカードの強みは3つ。
1.まとめてアクセスできる量が破格
「HQかR&Dへのランが終了するたび」という変わった条件でパワーカウンターを増やします。「ランが成功するたび」ではないことに注意してください。
「ランの終了」の効果を受けようが、一度アイスを通過してからジャックアウトを選ぼうが、そのランで計画書を盗んでさえいなければパワーカウンターを増やします。
つまり、ランナーが「R&Dにランします。最外殻の《アイス・ウォール》にエンカウントして、ランの終了を食らいます」を1ターンに4回やると、パワーカウンターが4個になってます。次のランでHQかR&Dのどちらかに、一度のランで3枚にアクセスできるわけです(パワーカウンターは消費されてしまうので、また集め直さなければいけませんが)。
次のターンもコーポが指をくわえて見ていれば、次のランでまとめて5枚アクセスです。5枚は致死量です。しかもHQとR&Dのどちらにもアクセスできるのが大きい。
《HQインターフェース/HQ Interface》と《R&D Interface》を両方インストールするのは実質《強烈なニュース/Hard-Hitting News》を自分から食らうのと同義ですが、《The Turning Wheel》はコスト2で両方のサーバーに対応可能です。
2.コーポに対策を強要できる
コーポはそうした事態を避けるために、HQとR&Dそれぞれの最外殻の位置を守るアイスには、「ランの終了」以外の嫌がらせ効果を持つものを選ばなければいけません。
《ヒミツ=バコ/Himitsu-Bako》や《データ・レイヴン/Data Raven》を最外殻にインストールすることは何とかして避けたい。サブルーチンが2つの《エニグマ/Enigma》や、3クレジットを没収する《トールブース/Tollbooth》ならまだいいでしょう。
3.コーポに対策がない
《トールブース》で嫌がらせをされたところでパワーカウンターは増え続けます。1回のランで勝負がつくほどの数のマルチアクセスが可能になるのであれば、一時的にクレジットを失うことはさほど問題ではないでしょう(《SEAの情報/SEA Source》はランが成功してないので撃てません。《強烈なニュース》はランが成功してなくても撃てますが、このカードはこのゲームに存在しないものと仮定します)。
そうやってパワーカウンターが一度でもこれにたんまり載ってしまうと、もうコーポには何もできません。ウィルスカウンターではないので取り除くのが難しいのです。バウンス、トラッシュといった手段があるにはありますが、いずれもランナーがミスしないかぎり起こりえません(《ニセイMk. II/Nisei MK II》も《Border Control》もこのゲームに存在しないものとします)。
インストールしただけでさまざまな駆け引きを生む楽しいカードです。やはりランをすると有利になるカードというのはこのゲームを面白くします。
どうせなら、わざとランを失敗させるようなセコいことをせず、《アウマクア/Aumakua》や《データサッカー/Datasucker》なんかも並べてランを成功させ、そうしたカードのウィルスカウンターもまとめて増やしていくと最高に気分が良いです。
その上クレジットとドローまで供給してくれる《Crowdfunding》までリアニメイトさせると、もう気持ちが良すぎて勝ち負けを度外視したラン中毒になるほどでしたが、中毒者を増やしすぎたか《Crowdfunding》だけは禁止の憂き目にあいました。
じゃあ《テムジンの契約/Temjin Contract》……もダメなので、《デスペラード/Desperado》……もダメか。仕方ないので《Bankroll》か《Kyuban》といきましょう。どっちもプレミアついてて持ってない?
アンドロイド:ネットランナーの禁止制限改定-スタンダードMWL 3.3 (2019年7月19日より有効)
注意:この記事の禁止制限ルール MWL は最新のものではありません。上記タグ「禁止制限改定」をクリックし、最新のものを参照してください。
MWLとは
MWLとは、アンドロイド:ネットランナーにおける禁止と制限のルールです。スタンダード・フォーマットとエターナル・フォーマットのそれぞれのMWLが個別に更新されます。
そのフォーマットにおいて禁止(もっぱら「除外/removed」と表記されます)のカードは、そのフォーマットのデッキに1枚たりとも入れることができません。
そのフォーマットで制限のカードは、デッキにそれぞれ1種類だけ、上限枚数まで望む数を入れることができます(IDであれば1枚、そうでなければ3枚までとなります)。
スタンダードやエターナルといったフォーマットについては、こちらも参照してください。
removeanddiscard.hatenablog.com
ソース
覚書簡易訳
はじめに
- エターナルでMWL変更はなし。
- 現在はランナーが圧倒的に有利。勝てるコーポは一握り。比較的健闘しているのは《Argus Security》《The Outfit》《Gagarin Deep Space》ぐらい。
- ランナーとコーポを五分五分にするには大きなテコ入れが必要。コーポのいくつかのカードを制限解除する。
- 上位の派閥の多様性のためにも、ランナーのカードに禁止や制限を加える。
- コーポがこれだけ弱いといえど、それでも特定のデッキには問題がある。そのようなデッキが環境を支配するのを防ぐ。
概観
ランナー:
《Au Revoir》、《企業の『助成』/Corporate “Grant”》《Power Tap》《Tech Trader》は制限リストへ。
《Crowdfunding》は禁止リストへ。
コーポ:
《SIU》と《Zealous Judge》は制限リストへ。
《サーベイヤー/Surveyor》と《Excalibur》は制限解除。
解説
《Crowdfunding》:最も激しく困難な議論の末に決定した。ランを喚起するデッキが優れているということはメタが健全であるということだが、リアニメイトはやりすぎ。クリミナルのデッキの制限枠はこのカードがデフォだし、アナークもまずこのデッキに影響コストを9支払ってる。コーポとランナーのあいだの経済格差を解消するカードが刷られたら解禁します。
《Tech Trader》《Au Revoir》《Power Tap》:これらの「するたび」の能力は従来の経済カードに依存しないクレジットエンジンを構築するので楽しいが、速やかにセットアップできてしまうと(だいたいのデッキでは速やかにセットアップしてます)、莫大な利益をもたらし、コーポはもう勝てません。特に《カボネサ・ウー》は1ターンで《Au Revoir》を3枚ともインストールできちゃう。《Laamb》と《Ankusa》のコンボでアイスをバウンスさせるのも駄目な。《Tech Trader》を制限すると《Hayley Kaplan》のアーキタイプがひとつ消えるし、《Armand "Geist" Walker》も意図せぬダメージを受けるが、Uprisingのカードが解決するから安心しろ。
《企業の『助成』/Corporate “Grant”》:現状/current全体への対処はもう少し時間が掛かるが、いくつかのクリミナルデッキを弱体化させるためにこのカードを制限します。クリミナルには他にもコーポの現状/currentへの対策がある。
《サーベイヤー/Surveyor》:制限解除にいろいろ意見はあるだろうけど、グレイシャーデッキがいま勝ててない。この解除は《Crowdfunding》同様に一時的な変更になる可能性がある。《テ”ウ”ィット”/D4v1d》がスタン落ちするので、そうなったらまた《サーベイヤー》も制限かも。
《Excalibur》:グレイシャーを強化したい。アンフェアカードにも見えるが、影響コストが少ないAIや擬似的にAIとして使えるアイスブレイカーがいま強いから、ランナーに対策はある。
《SIU》《Zealous Judge》:最近のトーナメントで大人気の《Gagarin Deep Space》に入る。パワフルで無慈悲なこのコンビはほとんどのランナーを封殺する。だいたい5ターン目までに封殺する。コンボパーツをトラッシュしにいくと《強烈なニュース/Hard-Hitting News》が飛んできます。《SIU》は「直前のターンにランされている場合にのみ」じゃないし、《Gagarin Deep Space》には《SIU》のトレースにいつでも勝てるだけの経済基盤がある。あと、このコンボは非常にムカつく。対話性のないコンボキルは禁止。
検討されたが今回は見送り
みんな現状/currentが大嫌いなのでなんとかしたいけど今回は時間がなかった。
《アウマクア/Aumakua》と《エンゴロ/Engolo》強すぎ。《Excalibur》が残ってるから今回は見逃すけど。
3.2から変更された箇所は太字。
スタンダード:コーポ - 禁止
スタンダード:コーポ - 制限
スタンダード:ランナー - 禁止
スタンダード:ランナー - 制限
次回更新
今年9月の予定。
アンドロイド:ネットランナーの英語版のみのカードを紹介:第2回 - Bryan Stinson ~ 捨て札を手札のように扱いそのコストをすべて踏み倒す禁止カード ~
他のカードゲームを見ていくうちに、「捨て札のことを手札であるかのように扱うカードは危険」「コストを踏み倒すカードは危険」「カードタイプが適切でないカードは危険」といったことが分かってきます。《Bryan Stinson》はそれらすべてを満たし、そして禁止されました。
《Bryan Stinson》
強化:人物
ランナーが6未満所有であるかぎり、Bryan Stinsonは「:アーカイブにある取引の任務1つを、すべてのコストを無視してプレイする。その取引をトラッシュするかわりに、ゲームから取り除く。」を得る。
なぜこんなに簡単に発動できるのでしょうか。ランナーのクレジットプールが5以下である状態にかぎり……という、特に意識しなくても達成できる条件を満たせば、「, アーカイブのヘッジファンドをゲームから取り除く:9得る」という法外な能力を得ます。
なぜ強化なのでしょうか。このカードを実際に使ったり使われたりした人が一番理不尽に思う部分が、このカードが強化であることだと思います。コーポは彼を引いたらとりあえず中央サーバーの防衛に便乗するかたちでルートにインストールして、ランナーが5以下所有の状態になるまでじっくり待つことができました。
なぜトラッシュコストが5なのでしょうか。払えません。まあ自分の所有が5以下にならなければいいわけで、放置してもいいか……などと甘く考えているランナーは《経済戦争/Economic Warfare》に泣きます。
なぜプレイコストを踏み倒せるのでしょうか。アーカイブの取引をそのままプレイできるだけでもよかったのに。いったん目覚めた彼の能力でコーポが1ターンに30くらい得るのはザラでした。もし返しのターンでランナーが所有5以下の状況から脱せなかったら……。
なぜ?なぜ?なぜが止まらないカード。そんな彼と最も相性がよかったと言えるのが、これまた英語版のみの取引、《Ultraviolet Clearance》ではないでしょうか。
任務:取引 - トリプル
この任務をプレイするための追加コストとして、を消費する。
10得て、そしてカードを4枚引く。カードを1枚インストールしてよい。
(CR 1.2によるエラッタ適用)
をまとめて消費するのはなかなか大変だったので、あえてディスカードフェイズで《Ultraviolet Clearance》をアーカイブに送り、《Bryan Stinson》でプレイコストと追加コストを踏み倒したものでした。ランナーにとってはたまったものではありません。
《Bryan Stinson》は晩期FFGによって制限カードに指定されました。晩期です。なぜか長いことお咎めなしだったと記憶しています。ともあれ制限は効果的で、その時点でほぼ使われなくなるほど使用率を落としました。その後、NISEIがスタンダードで禁止カードに指定したことで完全に表舞台から姿を消します。
彼はフレーバー的には「会社でなく個人の名義で取引を行うことを強いられ、いざという時はウェイランドにすべての責任をなすりつけられる男」という人物なのですが、そのとおりになってしまいました。でも私は、ときどき彼が恋しくなります。さっきの《Ultraviolet Clearance》のような、「踏み倒しでプレイされることを前提とした高コストのカード(そして実用的でもある)」というのはあまりこのゲームにないと思うんですが、そのような慎ましやかなゲームの中でのあの、冒涜的といえる踏み倒しには麻薬的な気持ちよさがありました。